不安障害とうつ病の違いを徹底解説
不安障害とうつ病は、症状が似ているところもあるため、判断が難しいと思う方もいらっしゃるでしょう。精神疾患は、正しい診断を受けて病気の概要を知ることで、適切な治療を受けられます。
本記事では、不安障害とうつ病の違いや、不安障害の種類、その他類似する疾患、不安障害とうつ病の治療法について解説します。
目次
1.不安障害とは2.うつ病とは
3.不安障害とうつ病の違い
4.不安障害やうつ病と混同されがちな疾患
5.不安障害の診断基準
6.うつ病の診断基準
7.不安障害やうつ病の治療法
8.不安障害やうつ病の患者とその家族へのアドバイス
9.不安障害・うつ病かなと思ったら専門クリニックに相談しましょう
不安障害とは
私たちは日常生活を送る中で、不安になったり、心配ごとがあったりして、気持ちが落ち着かない状態に陥ることがあります。健康な人であれば、ある程度の時間が経過すればその不安を解消できますが、いつまでも不安定な状態が続いて過剰なストレスが溜まってしまうと、不安障害のリスクが高まります。
不安障害は、精神が不安定になることで心と体のバランスが崩れてしまう精神疾患です。不安障害にはいくつかの種類があり、症状はそれぞれ異なります。ここでは、代表的な4つの不安障害について解説します。
※主な不安障害の種類
- 社会不安障害
- 全般性不安障害
- パニック障害
- 強迫性障害
社会不安障害
「社会不安障害」は、人前で話をしなければならない状況や、人がたくさん集まる場所に居るだけでも、強い不安や緊張を感じる病気です。実際はまだ何も起きていなくても、脳が不安になるだろうという予測をして、だんだん人を避けるようになります。
社会不安障害になる要因は、過去に失敗した経験が影響していることや、自分自身に自信が持てないこと等があげられます。症状は、手のふるえ、発汗、赤面、声が出ない、緊張による挙動不審などが現れます。
これらの症状は、性格によるものだと勘違いされやすく、本人も精神疾患として自覚できない場合は、治療が遅れてしまい、症状が慢性化するリスクが高まります。症状が重症化すると、さらにうつ病や他の精神疾患との合併のおそれがあります。
また、社会不安障害になる原因は、一説には脳内の神経伝達物質セロトニン、ドーパミンのバランスが乱れて神経が過敏になり、精神不安定な状態になると考えられています。
全般性不安障害
「全般性不安障害」は、いつも漠然とした不安・心配を持ち続けてしまう病気です。家族や子どもに何か悪いことが起こるのではないかと過剰反応したり、何をするにも疑い深くなったりしてしまい、物事がうまく進行せず、集中力も散漫になります。常に不安が付きまとうため、睡眠不足になったり、生活のリズムが崩れて不健康になります。
もともと神経質で心配性な人がなりやすく、過去に強烈な出来事や、強いストレスがかかるような経験があった場合に発症するケースが多くみられます。
全般性不安障害の場合、不安になる対象範囲が決まっていないため、家族、子ども、友達、会社、地域社会、世界情勢、災害など、全般的な内容すべてに対して不安を抱えるのが特徴的です。したがって、周りから見ると心配性な人、神経質な人という印象を持たれる場合が多く、本人も性格であると認識しているため、精神疾患と気づかないことが多い傾向です。
全般性不安障害の原因は、遺伝的要因や、自律神経の障害などが考えられています。
パニック障害
「パニック障害」は、突発的に強い不安に襲われる病気です。激しい動悸、発汗、頻脈、ふるえ、息苦しさ、胸部の不快感、呼吸困難、めまい、ふらつき、死への恐怖感、非現実的な感覚などといった症状が現れます。発作は、短くて10分、長くて1時間程度で治まります。
パニック発作は、発症理由がはっきりとしないまま突発的に襲ってきます。繰り返し発作が起こると、「また発作が起きたらどうしよう」という予期不安が現れます。予期不安が起こると、発作を回避しようとする行動をとるために、人混みや電車の中を避けるようになったり、誰かが一緒にいないと行動できなくなったりします。
パニック障害は、繊細で神経質、不安や恐怖心を持ちやすい人がかかりやすく、過剰なストレスが慢性化している場合に発症しやすくなります。
発症する原因については、精神的な負荷、遺伝要因、脳内の神経伝達物質の異常分泌などが考えられています。
強迫性障害
「強迫性障害」は、ある一定の行為や行動を繰り返してしまう病気です。
この病気の特徴は、「強迫観念」と「強迫行動」の2つです。強迫観念は、一つの考えに執着してそこから逃れられない状態になります。強迫行動では、繰り返し手を洗う行為、戸締りやガス栓、電気のスイッチなど何度も確認する行為など同じ動作を繰り返します。また、異常な数字へのこだわり、物の配置のこだわり、物事の手順に対するこだわりなど、度を越えた強迫行動が見られます。
一般的にこだわりの強い人はいますが、強迫性障害の場合は、強迫観念や強迫行動が過剰に現れて日常生活に支障が出て、周りにもこだわりを強要したりするようになります。
発症の原因については、性格や生い立ち、ストレスの負荷、脳内セロトニンの異常分泌などが考えられます。
強迫性障害は、WHO(世界保健機関)で「経済損失および生活の質の低下に影響する10大疾患」に指定されています。
うつ病とは
「うつ病」は、脳内の神経伝達物質「セロトニン」や「ノルアドレナリン」が著しく減少する病気です。神経伝達物質は、神経細胞から次の神経細胞へと情報を伝えて、感情や気持ち、行動をコントロールする役割を担っています。うつ病になると、神経伝達物質が不足して、意欲、集中力、記憶力、恐怖や怒りの感情を抑える機能などが低下して、ストレスが溜まりやすくなります。
うつ病の症状は、はじめはカラダの不調から始まり、だるさやめまい、頭痛や吐き気などが起きてやる気が無くなります。また、引きこもりになったり、暴力や攻撃性のある行動を取るようになります。また、セロトニンの異常分泌によって不眠や過眠など睡眠障害も出てきます。
うつ病が発症する原因は、カラダの疲れ、心理的ストレス、環境の変化などが考えられます。
不安障害とうつ病の違い
不安障害とうつ病は、共通してどちらも症状がひどくなると日常生活に支障が出てきます。
一方、それぞれの疾患は一見同じように見えて、症状や発症する原因などは異なります。
以下は、不安障害とうつ病の主な違いです。
病名 |
発症する要因 |
症状 |
||
不安障害 |
ストレス |
精神不安定 |
集中力の低下 |
発汗 |
遺伝 |
疲労感 |
動機・息切れ |
緊張 |
|
性格 |
イライラ |
めまい・ふるえ |
死の恐怖 |
|
うつ病 |
ストレス |
落ち込み |
希望が無くなる |
拒食 |
遺伝 |
疲労感 |
興味が無くなる |
過食 |
|
性格 |
やる気の低下 |
眠れなくなる |
イライラ |
|
環境の変化 |
集中力の低下 |
眠りすぎる |
怒りっぽくなる |
|
神経伝達物質の減少 |
自信がなくなる |
決断力の低下 |
死にたくなる |
不安障害やうつ病と混同されがちな疾患
精神疾患は、類似性のある症状が多いため、自己判断では区別がつきにくいこともあります。また、不安障害とうつ病は併発する場合もあり、さらに症状が悪化すると疾患の区別がわかりづらくなります。
ここでは、不安障害やうつ病と混同されやすい、主な疾患3つについて確認しましょう。
- 抑うつ神経症
- 心気症
- 恐怖症
抑うつ神経症
「抑うつ神経症」は、憂うつになったり、気分が落ち込んだりして軽いうつ状態が続きます。うつ病のように日常生活に支障が起こるほどではありませんが、気分が落ち込んでイライラ状態が長く続き、重症化はしないものの、慢性化すると長びくケースもあります。
心気症
「心気症」は、ちょっとしたカラダの不調でも過度に心配して、自分は重症であるかのように思い込む精神疾患です。病院の診断で何でもないと言われても、検査の結果が良性であっても納得せずに他の病院へ渡り歩く習性があります。心気症は、症状が長く続いて不安障害やうつ病と合併するケースもあります。
恐怖症
「恐怖症」は、特定の対象や状況に対して過剰に恐怖を感じる精神疾患です。高所や閉所、暗所など場所に対する恐怖や、ヘビ、昆虫、蜘蛛などを過剰に恐れること、血液、注射、病院など、雷や地震に対する恐怖心など、これらと関わることが日常生活の中で起きると、激しい恐れが生じます。恐怖症の原因は、過去のつらい経験や恐怖体験によるトラウマ、または遺伝によるものが考えられます。
不安障害の診断基準
精神疾患は、「ICD-10」または、「DSM-5」によって診断されます。
- ICD-10:WHO世界保健機関により国際的に統一基準で定められた死因・疾病の分類
- DSM-5:米国精神医学会が作成した「精神疾患の診断・統計マニュアル」
「ICD-10」の不安障害(全般性不安障害)の診断基準は、以下の通りです。
- 将来への心配
- イライラする
- 集中力が欠ける
- 落ち着きが無くなる
- 緊張による頭痛
- 振戦(ふるえ)
- 身震い
- くつろぐことができない
- 頭のふらつき
- 発汗
- 頻脈
- 心窩部不快
- めまい
- 口の渇き
「DSM-5」の不安障害(全般性不安障害)の診断基準は、以下の通りです。
- 過剰な不安と心配が起こる日が起こらない日より多く、6ヵ月間続く
- 不安を抑制することが難しい
- 以下の6つの症状のうち3つ該当する
①落ち着きのなさ緊張感、または神経の高ぶり
②疲れやすい
③集中困難、心が空白になる
④易怒性
⑤筋肉の緊張
⑥睡眠障害 - 臨床的に意味ある苦痛、または社会的、職業的に機能障害を引き起こしている
- 乱用薬物、医薬品、甲状腺機能亢進症などによるものではない
- 他の精神疾患ではうまく説明されない
うつ病の診断基準
「ICD-10」のうつ病の診断基準は、以下の通りです。
- 集中力・注意力が低下する
- 自己評価・自信が低下する
- 罪責感と無価値感
- 将来の希望がなくなる
- 自傷あるいは自殺の観念や行為
- 睡眠障害
- 食欲不振
「DSM-5」のうつ病の診断基準は、以下の通りです。
- 毎日気分が落ち込んでいる
- 興味がわかない
- 食欲の低下・体重の減少
- 眠れない、眠りすぎる
- イライラする
- 疲れやすくやる気がない
- 自信がなく自分を責める
- 集中力が低下して決断力が鈍る
- 死にたくなる
不安障害やうつ病の治療法
不安障害やうつ病の治療法は、心理療法と薬物療法、そして休養が必要です。
心理療法
心理療法では、「暴露療法」「認知療法」などを行います。
「暴露療法」とは、あえて恐怖心や不安になるような場所や状況を設定して、段階的に患者の症状を克服していく治療法です。
何らかの刺激に対して不安や恐怖心が起きるのは、刺激を回避することで慢性化や悪化するようになります。例えば高い場所に恐怖を持つ人は、高い場所から避けるのではなく、高い場所に徐々に近づいて慣れていくことが治療法として有効であるということです。
「暴露治療法」においては、患者の心理体験を治療者が一緒に同伴して、細かく話し合いながら治療を進めていきます。
「認知療法」は、患者の偏った考え方を修正して、柔軟な考え方ができるように改善していく治療法です。不安障害やうつ病では、考え方の偏りによって奇異な行動になってしまうため、患者の考え方の原因となる心理的な体験について、治療者と一緒に考えて改善していきます。
「認知療法」は、1970年代にアメリカの精神科医・アーロン・ベックが開発したうつ病に対する精神療法です。うつ病以外に、不安障害、ストレス関連障害、パーソナリティ障害、摂食障害、統合失調症などの精神疾患に効果的な治療法として世界的に広く使用されています。
薬物療法
精神疾患の原因となるのは、脳の神経伝達物質、セロトニンの異常分泌だと考えられています。したがって、疾患を改善するために、抗うつ薬や向精神薬等の薬物療法を行います。
セロトニンの分泌を活性化させるために、抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や向精神薬のBZD(ベンゾジアゼピン)などが使用されています。
- SSRI:神経伝達物質の働きを改善し、不安障害やうつ病などを改善する薬
- BZD:脳の興奮を抑えて不安や緊張などを改善させる薬
不安障害やうつ病で薬物療法を続ける場合は、症状が良くなっても途中で辞めたりせずに、医師の診断にしたがって、徐々に薬の量を減らしながら治療を進めていきます。
休養
不安障害やうつ病は、心理療法と薬事療法を併用しながら治療を行い、治療中にストレスを溜めないように休養をしっかり摂ることが必要です。
患者の置かれている環境によって、過剰なストレスがかかってしまうと、症状の改善が難しくなります。職場や学校、家事など、負担になっている部分を見直して調整するようにしましょう。不安障害やうつ病などになりやすい人は、生真面目で責任感が強く、過剰に負担を抱えやすい傾向があります。病気を改善するためには、無理をしない自分でいられるように、周りの家族や同僚、友人、治療者に相談しながら、頼ることや断る勇気を出して、自分が楽になる環境を整えることが大切です。
無理のない環境を作ることで、精神的な休養を摂ることができるようになります。心が休めるようになることで身体的にもリラックスできるようになります。
不安障害やうつ病の患者とその家族へのアドバイス
不安障害やうつ病を改善していくためには、患者本人の努力と家族のサポートが必要です。
精神疾患の治療は、本人の繊細な部分を段階的に時間をかけて治療していくため、家族や周りの協力がないと実現することが難しいケースもあります。
精神疾患の専門クリニックでは、治療法についてや、家族が患者へどのように対応したらよいか?その方法など、本人と家族だけでは抱えきれない問題について相談することができます。専門のプロに相談することで、病気について正しく理解して適切な治療を行うことができるようになります。
専門医に相談する際に、抑えておきたいポイントを確認しておきましょう。
病気の概要を理解する
精神疾患の種類はたくさんあるため、自己判断では、どの病気であるかわかりづらい場合があります。例えば、うつ病には症状の現れ方によって「大うつ病性障害」「双極性障害」があり、軽度のうつ病の場合は「抑うつ神経症」があります。また、不安障害にも多種類、存在するので類似性のある症状があると判断しづらくなります。症状が続いている人の場合は、複数の病気が併発している場合もあります。
したがって、まずは専門医の診断を受けて、自分の疾患について正しく理解することが必要です。
専門医の指示のもと適切な治療を受ける
自分の病気がわかったら、専門医の指示にしたがって治療を始めましょう。内科医の診断では、自律神経失調症の診断で終わってしまう場合もあります。かかる診療科を間違えると、正しい診断ができないため、必ず、精神科または心療内科など専門医の診察を受けるようにしてください。
また、治療を始めた際は、主治医の指示にしたがって、薬事療法で症状を緩和させながら、心理的な癖に気づいて改善できるように自己コントロールしていきましょう。
生活リズムを整え、適度な運動を心がける
不安障害やうつ病などを改善するためには、生活習慣を見直すことが大切です。自律神経を安定させて免疫力を高め、カラダと心のバランスを整えることが大事です。
生活習慣を見直すには、バランスの良い食事と適度な運動、睡眠のリズムを整えることが必要です。特に加齢によるうつ病の発症は、生活習慣病や認知症のリスクを伴うため、早めに診断を受けて治療を始めましょう。
アルコールや嗜好品を控える
ストレスや不安解消のためにアルコールを過剰摂取すると、アルコール依存症になるリスクが高くなります。
アルコール依存症とうつ病が併発することが多く、アルコール依存症にうつ症状が見られる場合や、うつ病が先に発症してからアルコール依存症になる場合があります。
アルコール依存症の人は自殺に至る可能性も高く、自殺した人のうち1/3の割合で直前の飲酒が認められています。
アルコールは、うつ病や不安障害を悪化させる危険性があるため、飲み方を調整するか、控えることが病気の改善になります。
嗜好品については、うつ病の人の喫煙率がうつ病のない人に対して2~3倍になっており、喫煙がうつ病発症の引き金になっている傾向です。タバコは、精神疾患以外にも生活習慣病や骨粗鬆症、認知症、歯周病などさまざまな病気のリスクを高める原因になっています。
うつ病の治療を行う場合は、タバコの習慣がある人は控えるようにしましょう。
不安障害・うつ病かなと思ったら専門クリニックに相談しましょう
不安障害やうつ病の症状に気づいた場合、または家族から見て様子がおかしいなと感じたら、専門医の診断をおすすめします。精神疾患は、類似した症状があるため、かかっている病気について判断するのが難しくなります。また、複数の疾患を併発している場合は、さらに自己判断では改善するのに時間がかかります。
不安や心配などが過剰に現れて、カラダの不調が見られる方は一度、専門医に相談するようにしましょう。
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