発達障害にTMS治療は効果的?エビデンスや注意点を解説
TMS治療は、欧米をはじめ海外では積極的に導入されている最先端の技術で、脳の働きを改善する治療法です。日本国内では重度のうつ病のみ保健適用で治療ができるようになっていますが、発達障害の症状に対しては、まだ導入事例や臨床効果についての報告が少ない状況です。
発達障害の治療法は、行動を改善するような療育と症状に適した薬物療法、脳のシナプスを刺激して活性化するTMS治療があります。
本記事では、発達障害の概要とTMS治療について、エビデンス、注意点などを解説します。
目次
1.発達障害とは2.発達障害の原因
3.TMS治療とは
4.TMS治療のエビデンス
5.日本でのTMS治療の活用状況
6.欧米でのTMS治療の活用状況
7.薬物療法とは
8.発達障害の治療の注意点
9.ADHDのうつ症状の軽減にTMS治療が効果的
発達障害とは
発達障害とは、脳機能の発達に関係する障害です。症状別にADHD(注意欠如多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)、LD(学習障害)の3つに分類されます。発達障害は、それぞれの疾患が合併症として現れるケースや、症状が軽度で診断基準を満たしていなくても日常生活が困難になる方もいます。
発達障害は、症状のレベルによっては第三者からはわかりにくく、本人だけが感じている困難な症状がさまざまあり、性格や育て方の問題として扱われてしまう場合もあります。そこで発達障害であると理解されないと、わがままで自分勝手であると非難されたり、親が子どもの発達障害を認めようとしないケースも多くあります。
発達障害は、社会的な交流に障害があるため、周りにいる関係者の理解と支援がとても重要です。
発達障害の治療法については、行動を改善するための治療を基本に、症状の種類によって薬物療法、TMS治療などを行います。
発達障害の種類について、症状別に3つのタイプについて解説します。
ADHD(注意欠如多動性障害)
ADHD(注意欠如多動性障害)は、不注意、衝動性、多動性の3つの特徴を持つ発達障害です。これらの特徴がそれぞれ際立って現れる場合や混合して現れる場合など、人によって症状の特徴が異なります。
ADHDは、症状による行動の抑制が難しいため、学業や仕事、日常生活が困難な状態になります。集中力や注意力が散漫になっているため、他の生徒と一緒に授業に参加できないケースや仕事のタスク管理ができないなどさまざまな支障が起こります。
ADHDの発症頻度については、診断される子どもの割合が、学童期3〜7%で男子が女子より3〜5倍多く、成人の割合は2.5%、男女比は1:1です。
ADHDの症状には、うつ病、双極性障害、不安症などの精神疾患、身体疾患が併発する場合もあり、虐待、幼少期の育てられ方などによって、ADHDと類似した症状が現れるケースもあります。また、ASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)と合併症となることもあります。
ADHDの診断基準については、アメリカ精神医学会(APA)の「DSM-5」(精神疾患の診断・統計マニュアル )によって、以下の内容から診断されます。
- 不注意に関して、同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に現れる
・活動に集中できない
・気が散りやすい
・物をなくしやすい
・順序だてて活動に取り組めない - 多動-衝動性に関して、同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に現れる
・じっとしていられない
・静かに遊べない
・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまう - 症状のいくつかが12歳以前から発症している
- 2つ以上の状況(家庭、学校、職場、その他の活動など)で障害になっている
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能に障害がある
- 今の症状が統合失調症、または他の精神病性障害では説明できない
ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(自閉スペクトラム症)は、対人関係の障害、社会性の障害、強いこだわりを特徴とする発達障害です。ASDの症状は人によってさまざまで個別の治療が必要になります。
また、ADHD(注意欠如・多動症)やLD(学習障害)などと合併症になるケースもあります。併存症については、約70%以上の人が1つの精神疾患を、40%以上の人が2つ以上の精神疾患との合併があると言われています。
ASDの発生頻度については、約100人に1人にASDである人がいると報告されており、子どもの場合は、およそ20〜50人に1人が自閉スペクトラム症であると診断されています。男女比については、男性が多く女性の約2〜4倍となっています。
治療方法としては、根本的な改善となる薬物療法はなく、療育と生活環境の調整が必要になります。ただし、生活が困難となる場合、例えば、興奮、パニック、自傷行為、攻撃性、不眠などの問題があるケースには、薬による治療が行われます。
「DSM-5」(精神疾患の診断・統計マニュアル )によるASDの診断基準は以下の通りです。
- 複数の状況で社会的コミュニケーション、対人的相互反応における持続的欠陥がある
- 行動、興味、活動において限定された反復的な症状が2つ以上あること
・情動的、反復的な身体の運動や会話、固執、こだわりがある
・極めて限定され執着する興味がある
・感覚刺激に対する過敏さと鈍感さがある - 発達早期から上記の症状が存在している
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能に障害がある
- 今の症状が知的能力障害(知的障害)、全般性発達遅延では説明できない
LD(学習障害)
LD(学習障害)は、読み書き、計算などで学習の遅れが認められる発達障害です。症状別に「読字障害」「書字障害」「算数障害」の3つの障害があり、単体の症状が現れる場合と混合して現れる場合があります。
また、ADHDやASDと併発している場合は、症状に合わせた学習環境で家族、学校、医療機関の連携が必要になります。
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル )によるLDの診断基準は、以下の通りです。
- 読字障害:読字理解、速度、正確性における特定の問題がある
- 書字障害:文法、文構成、文章作成における特定の問題がある
- 算数障害:計算、数字、記号の模写、これらの理解力における特定の問題がある
「読字障害」は、文字の読み方や文字の形を認識することが難しくなる特徴があります。ひらがなの音読が遅く、読んでも意味を理解できずスラスラ読むことが難しくなります。
「書字障害」は、文字を視覚的に捉えることができないので、バランスよく字を書くことができません。書き写しが非常に遅くなり、考えた内容をまとめて書くことが難しくなります。
「算数障害」は、数を概念として認識できないので、計算や文章問題などを解くのが難しくなります。
発達障害の原因
発達障害の原因については、大脳皮質の神経シナプスが関わっていることがわかってきています。神経シナプスとは、神経細胞と神経細胞のつなぎ目で、外部からの情報を次の神経細胞へ伝達する役割を担う接合部分です。
生まれたばかりの赤ちゃんには、このシナプスがほとんどありませんが、生後6か月頃までに急激に増加し、約1歳から2歳までシナプス数は最大になります。
しかし、発達障害が認められた場合は、シナプスが正常に働かないため、さまざまな障害が現れます。したがって、発達障害の原因は、親の育て方や本人の怠慢などではなく、生まれつきの脳機能の障害によるものだということです。
また、ASDの場合は、生まれつきの脳の機能障害以外に、胎内環境や周産期のトラブルなども、関係している可能性があると言われています。
TMS治療とは
TMS治療とは、磁気で脳を刺激してシナプスの働きを活性化する治療法です。反復経頭蓋磁気刺激法(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)の略で、アメリカ発の治療方法です。発達障害で採用されている薬物療法と比較すると、薬による副作用がなく身体的負担が少ないため、継続的に治療を行うことができます。
ADHDへのTMS治療
右DLPFC(背外側前頭前野)に対して、高頻度の刺激を行います。ADHDの症状に見られる集中力、多動、衝動性、攻撃的な行動を改善することに効果があります。治療回数は、15~30回ほど継続して行われます。
TMS治療の場合は、薬事療法に見られる副作用の問題が無いので、継続的に治療を続けることができます。
※102th Hospital of People’s Liberation Army of Chinaにおける臨床研究より
ASDへのTMS治療
右のDLPFC(背外側前頭前野)に対して、高頻度刺激を3週間程かけて行います。自閉症スペクトラムの繰り返しの行動や、強迫観念、認知の機能に効果があります。
※2017年、ブラジルサンパウロ大学で行った臨床研究の結果報告より
TMS治療のエビデンス
TMS治療については、海外と比較すると日本は後進国で、まだ研究発表も少なく臨床事例もごく少ない状況です。
日本でのTMS治療の活用状況
TMS治療は、日本国内では重度のうつ病のみが保険適用ですが、発達障害とその他の精神疾患については、保健適用外となっています。また、治療と効果についての報告は、一部の難治性うつ病に対してのみであるため、まだ研究レベルの段階です。
日本の先端医療はアメリカから5年以上遅れており、発達障害とTMS治療についての文献も少なくエビデンスが低くなっています。
欧米でのTMS治療の活用状況
日本と比較すると欧米の精神科クリニックの方がTMS治療を積極的に導入しています。
欧米では2008年にTMSが承認され、一般クリニックでも臨床応用が進んでいます。
また海外では、TMS治療は、強迫性障害、PTSD心的外傷後ストレス障害、統合失調症、アルツハイマー型認知症などの精神疾患、脳梗塞の後遺症、パーキンソン病、慢性疼痛、耳鳴などの疾患にも臨床応用が進んでいます。
薬物療法とは
発達障害の治療には、精神病薬や抗うつ薬などを使用した薬物療法を中心とした治療を行っています。発達障害の症状は、その他の精神疾患と併発した場合に症状を緩和させる方法として薬の服用が必要となっています。
しかし、薬物療法では、発達障害の症状を根本的に治すことは難しいため、可能な限り薬を使わないTMS治療法と併用することがひとつの方向性としてあります。
発達障害の治療の注意点
では、発達障害の治療において、どのような点で気を付けたらよいのでしょうか。TMS治療の治療効果について、子どもへの負担と影響、「QEEG検査」について解説します。
TMS治療の効果が現れない場合がある
TMS治療は、日本国内では2019年6月にうつ病に対するTMS治療が保険診療化され、まだ臨床効果の事例が少ない現状です。したがって、治療に対する効果については個々に異なり、回復が期待できないケースもあります。TMS治療を始める際は、治療計画と効果について主治医とよく相談してから検討しましょう。
TMS治療を子どもに行うのはリスクが高い
「日本精神神経学会による反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針」では、TMS療法は、原則、抗うつ薬による十分な薬物療法を行っても、期待された治療効果が得られない成人患者(18 歳以上)に実施することとなっています。
したがって、脳が未発達な子供の場合、TMS治療はリスクが大きく安全性に関しては、断言できない要素もあるため、脳機能やその他の機能に及ぶリスクは高いと言えます。
QEEG検査は参考程度にしかならない
「QEEG検査」とは、脳の状態を可視化して画像にすることで脳機能の状態を調べることができる検査です。発達障害の診断は、通常、患者の問診から、医師の経験値や主観による診断が行われます。
一方、QEEG検査は医師の主観ではなく可視化されたデータを元に客観的な診断ができるようになります。ただし、発達障害の問診は、幼少期からのエピソードが大変重要となるため、QEEG検査のみでは、正確な診断ができない場合もあります。
ADHDのうつ症状の軽減にTMS治療が効果的
TMS治療は、現在、発達障害の治療法として研究が進んでいる最先端の治療です。
欧米では臨床利用が進んでいますが、日本では、うつ病の症状だけに保険が適用されており、ADHDに見られるうつ症状の緩和にも効果的な事例が報告されています。
TMS治療については、これから発達障害の治療を続けていく人にとっては、新しい可能性を持つ治療法です。
TMS治療については、現在、薬物治療を行っている方のもう一つの選択技として、専門医と相談しながら検討していきましょう。
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