認知症の人にはどのように対応するべき?
「認知症の人に絶対やってはいけない対応とは?」
「認知症の方への接し方や話し方のポイントは?」
「家族がもつべき心構えが知りたい」
日本では、高齢化とともに認知症の患者数も増加しています。「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」をもとに推計されたデータによると、将来的に65歳以上の5.4人に1人が認知症になるといわれています。
本記事では、認知症の方への対応に関する冒頭の疑問について、詳しく解説していきます。
身近に高齢者の方がいる方や、認知症について知っておきたいという方は、ぜひご参考ください。
目次
1.接し方のポイント1-1.ポイント①否定しない
1-2.ポイント②褒める
1-3.ポイント③ストレスを与えない
1-4.ポイント④かけがえのない存在であることを認識してもらう
2.認知症の方への話し方
2-1.耳元で大きく、ゆっくり話す
2-2.目線を合わせて目を見て話す
3.家族が認知症を受け入れるまでの心理ステップ
3-1.戸惑い・否定
3-2.混乱・怒り・拒絶
3-3.あきらめ・割り切り
3-4.受容
4.家族がもつべき心構え
4-1.焦らない
4-2.認知症の人の感じ方を理解する姿勢を持つ
5.認知症の人に絶対やってはいけない7つの対応
5-1.叱る
5-2.命令する
5-3.強制する
5-4.子ども扱いする
5-5.行動を制限する
5-6.役割を取り上げる
5-7.何もさせない
6.認知症の方とは適切な対応を学んで受容しながら接しよう
接し方のポイント
まずは早速、接し方のポイントから解説していきます。
主なポイントは以下の4つです。
- 否定しない
- 褒める
- ストレスを与えない
- かけがえのない存在であることを認識してもらう
それぞれ見ていきましょう。
ポイント①否定しない
認知症の方と接する際に「否定しない」ことは基本中の基本です。
認知症の方が現実と異なる事を話しても、彼らの記憶や感覚を否定するのではなく、理解しようとする姿勢が大切です。
記憶や認知のズレからくる彼らの話には、直接的な訂正や否定はしない方が良いでしょう。
それは彼らに不必要なストレスや混乱を与えてしまい、コミュニケーションの妨げになります。
彼らの発言に対しては、共感を示し、安心感を伝えることで、ポジティブな交流を保てます。
正しい情報を伝えたい衝動を抑え、彼らが感じていることにフォーカスしましょう。
それが穏やかな関係を築くことにつながります。
ポイント②褒める
認知症の方への接し方で「褒める」というポイントは、とても重要です。
認知症の方が日常生活で何か小さなことを成し遂げたとき、たとえそれがごく簡単なことであったとしても、積極的に褒めることで自尊心をサポートし、モチベーションの向上につなげましょう。
彼らがかつてできたことが困難になっている今、成功体験は非常に価値があります。
小さな成功を称賛することで、彼らは愛され、評価されていると感じ、これがさらなるポジティブな行動を引き出す可能性があるのです。
常に優しさと尊厳を持って接しながら、彼らのできたこと、頑張っていることを見つけ、褒めるよう心掛けましょう。
ポイント③ストレスを与えない
認知症の方とのコミュニケーションにおいて「ストレスを与えない」ことが大切です。
ストレスは認知症の症状を悪化させる原因のひとつであるため、彼らの感情や能力を尊重し、忍耐強く接することが重要になります。
また、複雑すぎる選択や急いで行動を促すなど、プレッシャーを感じさせる状況は避けましょう。
周囲の環境が安定していて予測可能なものであれば、人は安心して過ごすことができるものです。
日常生活に一定のルーチンを提供することも、ストレスを減らすのに寄与します。
安心して過ごせる環境作りを心がけることで、彼らの穏やかな気持ちを保つ手助けとなります。
ポイント④かけがえのない存在であることを認識してもらう
認知症の方と接する際には、彼らがいかに大切な存在であるかを感じさせることが欠かせません。
これは、彼らの自尊心を守り、安心感を提供するためにももっとも重要な点であるといえます。
直接的な言葉で「あなたは大切だ」と伝えるだけでなく、日々の行動や態度を通じてそれを示しましょう。
たとえば、彼らの話に真剣に耳を傾け、目を見てコミュニケーションを取ること、小さな成果を認めて声をかけることなどが挙げられます。
常に愛情と尊重の心を持ち、彼らが社会や家庭内で必要とされる一員であることを確認してもらうことが大切です。
このような接し方は、彼らの精神的な満足感を高め、健やかな精神状態の保持に寄与します。
認知症の方への話し方
次に、認知症の方への話し方を見ていきましょう。
ここでは最重要となる以下の2つを解説します。
- 耳元で大きく、ゆっくり話す
- 目線を合わせて目を見て話す
それぞれ確認してください。
耳元で大きく、ゆっくり話す
認知症の方に対する話し方では、耳元で大きな声でゆっくりと話すことが重要です。
認知症を患うと、聴覚のみならず、情報を処理する能力が低下することも多いため、はっきりとした話し方によって伝えたい内容が彼らに正しく理解される可能性を高めます。
声をかける時は、その人の注意を引くために名前を呼び、話を始める前に目を合わせましょう。
そして、単純で短い文を使い、ポイントをはっきりさせて伝えることも意識してみてください。
早口や複雑な言い回しは避け、確実に理解してもらえるようにゆっくりと話すことが大切です。
目線を合わせて目を見て話す
認知症の方とコミュニケーションを取る際、目線を合わせて目を見て話すことは非常に有効です。
目を見て話すことで、相手に対する関心と尊重の気持ちを伝えることができます。
これにより、認知症の方は自分が大切にされていると感じ、安心感を得られます。
また、目を見ることで、非言語的なシグナルや感情を読み取ることが容易になるでしょう。
これは、言葉だけでは伝わらないことを相互に理解するための重要な手段です。
ただし、じっと見つめすぎると圧迫感を感じさせる場合があるので、適度な目の交わりがポイントです。
適切なアイコンタクトは、認知症の方への共感と優しさを示し、信頼の構築を助けます。
家族が認知症を受け入れるまでの心理ステップ
ここからは、家族が認知症を受け入れるまでの心理ステップを紹介します。
統計上、以下の4ステップが基本的な流れとされています。
- 戸惑い・否定
- 混乱・怒り・拒絶
- あきらめ・割り切り
- 受容
それぞれ順に解説していきます。
戸惑い・否定
認知症の診断を受けた家族を持つ人々が最初に経験する心理ステージが「戸惑い・否定」です。
この段階では、家族は予期しない診断に対してショックを受け、その事実を受け入れられないことがよくあります。
「こんなことが起こるはずがない」や「きっと間違いだ」などといった考えは、戸惑いや否定の感情の典型的な表れです。
このような反応は、愛する人の変化に直面した際の自己防衛機制として認知症以外でもたびたび見られます。
時間が経つにつれ、症状の現れ方や日常生活への影響を目の当たりにすることで、徐々に現実を受け止める準備ができていくものです。
混乱・怒り・拒絶
家族が認知症の診断を受け入れる過程で「混乱・怒り・拒絶」は一般的な反応のひとつです。
診断後の戸惑いや否定のフェーズを超えると、現実とその影響に直面するなかで、家族はしばしば混乱を経験します。
理解しようと努めるものの、状況の複雑さと予測不可能性に圧倒されることがあります。
この心理状態は、しばしば怒りやイライラへと移行し、なぜ自分の愛する人がこのような病にかかったのか、運命への不満や医療機関への不信感を示すこともあります。
受け入れが難しくなると拒絶反応が出ることもあり、このステップは、過程のなかでもっとも感情的に負荷がかかる部分であり、支援と理解をとくに必要とするステップです。
あきらめ・割り切り
認知症の診断を受け入れる心理的プロセスのなかで「あきらめ・割り切り」のフェーズに至ると、家族は病気が不可避であり、状況を変えることはできないという現実に直面します。
この段階では、最初の否定や怒りの感情が静まり、病気と共存する方法を探り始めることになります。
家族は完全な受容には至っていないかもしれませんが、現実を客観的に見つめ、症状の進行を受け止め「これが新しい通常である」と割り切る心の準備が徐々にできていく段階です。
ここで、状況に適応し、可能な限りの支援とケアの提供へとつながる行動や計画を始めることがよくあります。
受容
家族が認知症という現実を受け入れる「受容」の段階に達すると、彼らは徐々に病気に対する理解と平和を見出します。
戸惑い、怒り、そしてあきらめの各ステージを経て、家族は最終的に状況を穏やかに受け止め、今後の生活における新しい常態を認識します。
受容は、認知症を患う人々に対する深い共感と愛情に根ざしており、もはや病との戦いではなく、ともに生きる方法を見つけていく方向へシフトしていきます。
現実を受け入れたうえで、家族は支援、ケア、日々の喜びを最大化するために前進するために、情報やリソースを求めることになるでしょう。
家族がもつべき心構え
いざ家族が認知症になったとき、不安に思う方が多いでしょう。
そこでここからは、家族がもつべき心構えを2つ紹介します。
心構えといっても、難しいことではありません。
- 焦らない
- 認知症の人の感じ方を理解する姿勢を持つ
まずは落ち着いて、そして優しく受け止めましょう。
それぞれのポイントをさらに深掘りしていきます。
焦らない
認知症の家族が心がけるべき「焦らない」という心構えは、病気との付き合い方を学ぶ際に非常に大切です。
認知症の進行は人それぞれであり、日々変化する状況に素早く対応する必要があるため、焦りは感じやすいですが、これは患者さんにも伝わりやすく、不安や混乱を引き起こす原因にもなります。
ゆっくりと状況を受け止め、一つひとつの変化に対応することで、本人も家族もより良いケアを行う土台を作れます。
焦らず、一緒に過ごす時間を大切にしながら、できる限りのサポートを提供する姿勢が推奨されます。
こちらの記事では、認知症が進行する原因についてくわしく解説しています。あわせてぜひご覧ください。
認知症が一気に進行する原因とは?
認知症の人の感じ方を理解する姿勢を持つ
認知症の人の感じ方を理解しようとする姿勢は、家族にとって大切な心構えのひとつです。認知症を患う人々は、周囲の世界を理解したり、感情を表現したりすることが難しくなることがあります。
家族が彼らの視点を理解しようとすることで、コミュニケーションや日常生活に寄り添った支援ができるでしょう。
また、彼らの感情やニーズの微妙な変化に気づくための洞察力が養われます。
このような共感的なアプローチは、患者さんのストレスを減少させるとともに、家族全体の絆を深め、より温かく支え合う関係を築く助けとなるでしょう。
認知症の人に絶対やってはいけない7つの対応
最後に、認知症の人に絶対やってはいけない7つの対応を紹介して終わります。
- 叱る
- 命令する
- 強制する
- 子ども扱いする
- 行動を制限する
- 役割を取り上げる
- 何もさせない
多くは基本的なことですが、中には「何も差せない」など、つい善意でやってしまうことも含まれます。
それぞれ、理由とともに確認してください。
叱る
認知症の方に向けて頭ごなしに叱る行為は、絶対に避けるべきです。
認知症の進行は、その人の意志とは無関係に記憶や判断力が低下していくため、日常生活での困りごとや誤った行動は避けがたいものです。
叱責は彼らの自尊心を傷つけ、不安やストレスを増大させることにつながりかねません。
また、攻撃的な反応を引き出す原因ともなり得ます。状況の説明や落ち着いて対処する方法を優しく教え、支持する姿勢が重要です。
認知症の方は感情の影響を強く受けるので、常に尊重と理解をもって接することが不可欠といえます。
命令する
認知症の方に命令形式で物を言うのは避けましょう。
命令はしばしば圧力を与え、彼らを防御的にさせることがあります。
認知症には自立を促す温かい支援が必要です。
命令ではなく、選択肢を提供し、決定に参加できるよう支えることで、彼らの自尊心や自律性を尊重しましょう。
穏やかな口調と肯定的な言葉選びで、安心できるサポートを提供することが鍵です。
強制する
認知症の方に対して「強制する」ことは、信頼関係を損ね、ストレスや抵抗感を引き起こすため、避けるべき対応です。
認知症は症状が日々変動し、その人なりの世界観を持っているため、自分の意思や感覚を尊重しない行為は彼らを混乱させ、不安や反発を生じさせる可能性があります。
日常生活においても、安心して選択できる環境を整え、必要であればゆっくりと選択肢を提示し、彼らのペースで動けるよう支援することが重要です。
常に患者さんの尊厳を心に留め、優しく、根気よく接するようにしましょう。
子ども扱いする
認知症の方を子ども扱いすることは、彼らの尊厳を損ない、自尊心を傷つける行為です。
大人としての経験や自己のアイデンティティを持つ彼らに対し、話し方や対応が幼稚化してしまうと、それは人格を否定することにもつながりかねません。
また、依存を増やす原因にもなり、彼らが持つできるだけの能力を発揮する機会を奪ってしまいます。
だからこそ、常に認知症の方を大人として尊重し、対等なコミュニケーションを心掛けましょう。
行動を制限する
認知症の方の自由を不当に制限することは、彼らの生活の質を大きく下げる可能性があります。
自己決定の権利と自由という基本的人権を侵害する行為であるからです。
たとえば、安全は確保しながらも、できるだけ通常の生活活動や社会参加を続けられるよう配慮が必要です。
不必要な制限は彼らのストレスを増加させ、社会的孤立や不安、抑うつを引き起こしがちです。
そこで大切なのは、継続的なコミュニケーションと個々の状況に合わせた適応策をとること。
安全と自立のバランスを見極めながら、できるだけ普段どおりの日々を送れるよう支援しましょう。
役割を取り上げる
認知症の方の役割を取り上げることは、彼らの自尊心とアイデンティティを損なう行為です。
たとえば、日常生活のタスクを自発的に行えなくなった場合でも、能力に応じた小さな任務を彼らに委ねることが重要です。
これにより、彼らは有意義で必要とされているという感覚を保ち、自信と自己効力感を維持できます。
そのため、できる限りの自立を促し、支援が必要な時には優しく助けを提供しましょう。
常に彼らの尊厳を守り、人間としての価値を認める態度が大切です。
何もさせない
認知症の人に「何もさせない」という対応は、その方の自尊心や自立心を損ない、症状を悪化させる可能性があります。
彼らが独自の意志や能力を発揮することは、自己価値感の向上につながり、認知機能の維持にも役立ちます。
日常生活の小さなタスクであっても、できる限り本人に参加してもらい、サポートを提供することが重要です。
完璧でなくても良いので、認知症の方が自分の能力に応じた活動を行うことを奨励しましょう。
これにより、彼らの生活に意味と目的をもたらし、より充実した日々を送ることにつながります。
無理なく彼らを支援し、できることを尊重する姿勢が大切です。
認知症の方とは適切な対応を学んで受容しながら接しよう
認知症の方への適切な対応には、理解と受容が不可欠です。
調和のとれた関係を築くためには、その人の過去やパーソナリティを尊重し、彼らの現在の状況を認めることが重要です。
コミュニケーションをとる際には、ゆっくり、はっきりと話し、非言語的なサインにも注意を払いましょう。
彼らの意見や願いを尊重し、できる限り自己決定を尊重するよう努めることも重要です。
認知症の方にとって安定した日常と継続性は安心感をもたらすため、一貫性のあるケアルーチンを実践することも大切。
また、彼らが直面する挑戦は変わり続けるため、その時々の状況や能力に合わせた柔軟性も求められます。
愛情と優しさをもって接し、安心と尊厳を守ることで、認知症の方も家族もより良い生活を送ることができるでしょう。
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